空調制御にAIは必要?従来の制御における課題やメリット、導入事例を解説

2026.8.25 AI空調・省エネ最適化

商業施設やオフィスビルでは、外気温、日射、在室人数、利用時間によって必要な空調能力が変わります。また、複数施設を管理する場合、現場ごとに設定を調整する運用では、快適性や省エネの成果にばらつきが出やすいです。

こうした課題への選択肢として、AIで空調設備の運転を最適化する「AI空調制御」が注目されています。既存の制御をすべて置き換えるものではなく、設備データや気象情報を活用して、運転計画や設定をより適切な状態に近づける考え方です。

本記事では、AI空調制御の仕組みと従来のフィードバック制御との違い、導入するメリット、確認したいポイントを解説します。実証実験の結果も紹介しますので、自社施設で検討する際の参考にしてください。

AI空調制御とは「AIで空調設備の運転を最適化する仕組み」のこと

AI制御とは、AIを使って機械・システム・設備の運転管理をおこなう仕組みです。AI空調制御では、室温や湿度、設備の運転データ、気象情報などをもとに、これから必要になる空調能力を予測し、設定温度や運転時間などを調整します。

例えば、過去の利用状況と天気予報から午後に負荷が高まると予測できる場合、室温が大きく変化してから対応するのではなく、事前に運転計画を調整可能です。人が少ない時間帯やエリアでは運転を抑え、利用が集中する場所では必要な能力を確保する、といった運用を目指します。

AI空調制御の基本的な流れは、次のとおりです。

  1. センサーや制御システムからデータを取得する
  2. AIが需要を予測する
  3. 設備の設定や運転計画を最適化する
  4. 結果を次の学習に活かす

ここでは、AI空調設備の導入を検討する上で押さえておきたいポイントを整理します。

空調設備はセントラル方式と個別方式に分けられる

AI空調制御を検討する前に、自社の空調方式を把握しておくことが大切です。企業や大規模施設で使われる空調設備は、大きくセントラル方式と個別方式に分けられます。

  • セントラル方式:熱源設備でつくった冷水・温水などを、配管やダクトを通じて各フロアの空調機へ送り、建物全体をまとめて空調する方式
  • 個別方式:各部屋やエリアに設置した空調機ごとに冷暖房をおこない、エリア単位で運転・設定できる方式

空調の方式によって、AIが扱うデータや制御対象は変わります。例えば、セントラル方式では熱源の送水温度や空調機の起動時刻などが、個別方式では空調機ごとの設定温度などが、AI制御の対象になる場合があります。

まずは設備台帳や系統図、中央監視・制御システムの資料を確認し、空調方式と、どの設備・エリアを単位に制御しているかを整理しましょう。

フィードバック制御とAI制御の違い

従来から使われている代表的な空調制御の方法に、フィードバック制御があります。これは、目標値と実際の値との差を検知し、その差を小さくするように機器を動かす仕組みです。

例えば室温を25℃に保つ場合、実際の室温が30℃なら、設定値との差を小さくするよう冷房能力や風量を調整します。一方AI制御は、過去の運転データや日付、気象情報などから、将来の空調需要を予測します。

変化が起きてから補正するフィードバック制御に対し、需要の高まりを見込んで先回りした運転計画を立てやすい点が特徴です。

空調制御をAIでおこなう必要はあるか?従来の空調管理の課題3選

AI空調制御が必要かどうかは、施設の規模や現状の運用によって異なります。

ここでは、従来の空調管理による課題を整理します。自社でも当てはまる項目があるか、確認してみてください。

従来の空調管理の課題1:エリアごとの適切な制御が難しい

建物内では、在室人数や利用状況、日射、OA機器の稼働などにより、エリアごとに必要な空調能力が異なります。人が集中する会議室と利用者の少ないスペースでは熱の発生量が異なるため、全館を一律の設定で運転すると、冷暖房が過剰または不足する場合があるでしょう。

さらに、外気温や時間帯で熱負荷は変わります。各エリアの状況を継続して把握し、設定を細かく変え続けることは、人手だけでは簡単ではありません。

AIによる予測は、こうした変化への対応を検討するための手段の一つです。

従来の空調管理の課題2:運用・設備管理者の負担がかかる

従来の空調管理では、利用状況や気象条件に応じて、設備管理者が運転状況を確認し、設定を調整する必要があります。特に、大規模施設では複数のエリアや空調機を扱うため、監視や設定変更に時間がかかるケースも珍しくありません。

また、人の判断による運用は、担当者の経験やノウハウに依存しやすい面があります。担当交代や拠点展開の際に運用品質をそろえにくく、属人化につながる場合もあるでしょう。

そこで、日常の分析や運転計画づくりをAI空調制御による仕組みで支えられれば、担当者は異常対応や保守計画など、より判断が必要な業務に時間を使いやすくなります。

従来の空調管理の課題3:省エネと快適性の両立が難しい

空調では、消費エネルギーを抑えるだけでなく、利用者にとって快適な室内環境を維持する必要があります。しかし、空調の運転を評価する際には、単に電力使用量だけを見ればよいわけではありません。

例えば、省エネ性能をみる指標の一つにCOP、温熱環境の快適性を評価する指標の一つにPMVがあります。

  • COP:消費電力に対して、どれだけの冷暖房能力を得られたかを示す指標。数値が大きいほどエネルギー効率が高いとされる
  • PMV:温度、湿度、気流、放射温度、着衣量、活動量の6要素を踏まえ、人が暑い・寒いと感じる程度を数値化する指標

省エネだけを優先して運転を抑えれば、快適性が下がるおそれがあります。反対に、余裕を持たせすぎた運転はエネルギーの無駄につながる場合もあるでしょう。

変化する複数の条件を考慮しながら両者のバランスを取ることが、従来の空調管理では難しい点といえます。

空調制御にAIを活用する4つのメリット

ここからは、空調制御にAIを活用する4つのメリットを解説します。

メリット1:消費電力の最適化

AIで空調需要を予測し、必要な時間・場所に必要な分だけ運転できれば、無駄なエネルギー消費を抑えやすくなります。外気温や在室状況、過去の運転データなどを考慮できるため、固定設定や人による調整だけでは捉えにくい変化に合わせた運転計画を立てやすくなります。

過剰な冷暖房や不要な稼働を抑えることで、施設全体の消費電力を効率化できる可能性があります。これにより、電気代の削減にも効果が期待できます。

ただし、削減効果は建物用途、設備、運用条件によって変わるため、導入前に自社データで確認することが重要です。

メリット2:快適性の向上

AI制御では、省エネだけでなく、室内の快適性を考慮しながら運転を調整できます。室温や湿度、外気条件などの変化を捉え、エリアや時間帯に応じた制御をおこなうことで、暑すぎる・寒すぎる状態を抑えやすくなります。

利用状況に応じて必要な空調能力を確保し、省エネと快適性のバランスを取りながら運用することが、AI制御のメリットです。

メリット3:運用・設備管理の負担軽減

AIがデータ分析や運転計画、設定調整の一部を担うことで、設備管理者の作業負担を軽減できる可能性があります。従来は担当者が確認していた日常的な調整を自動化・標準化できれば、監視や設定変更にかかる手間を抑えられるでしょう。

また、空調管理における経験や勘への依存を減らせるため、人手不足や属人化への対応にもつながります。

複数施設を管理する場合は、現場ごとの運用ルールを整理し、共通のデータにもとづく改善を進めることで最適化に近づきます。

メリット4:脱炭素の実現につながる

AI空調制御によってエネルギー消費を抑えることは、電力使用に伴うCO2排出量を減らす取り組みの一つになります。設備を単純に停止するのではなく、必要な空調を維持しながらエネルギー利用を効率化できるため、事業活動を続けながら脱炭素化を進める手段といえます。

AIによる空調制御は、大規模な設備更新ではなく、既存設備の運用改善という観点から検討できる点が特徴です。自社の省エネ目標やCO2削減方針と現在の設備運用を照らし合わせた上で、導入を判断しましょう。

AI空調制御を導入する際のポイント

AI空調制御は、サービスごとに対応設備や必要なデータ、導入方法が異なります。導入前には、次の点を確認しておくと、比較・検討を進めやすくなります。

  • 自社の空調方式・設備構成に対応しているか
  • 既存の空調設備や中央監視・制御システムと連携できるか
  • AI制御に必要な運転データを取得・活用できるか
  • 追加設備や工事などにかかる費用はどの程度か
  • 導入後の運用・保守体制は整っているか

設備更新ありきで考えるのではなく、既存設備を活用できるかも含めて比較することが重要です。対応可否は個別に異なるため、設備資料を用意して確認し、必要に応じて専門家に相談すると安心です。

AI空調制御の導入事例|「ConsciousAir」における実証実験の結果を紹介

AI空調制御でどの程度の省エネが見込めるかは、設備や運用条件で変わります。ここでは、アラヤの空調最適化AI「ConsciousAir」による実証実験を紹介します。

※下記の数値は、対象施設・期間・制御内容が限定された結果であり、すべての施設で同じ効果を保証するものではありません。

事例1:商業施設で設定温度のAI制御に取り組み、消費電力を11〜34%削減

約6,000㎡の商業施設で、空調機器5台の設定温度をAIで制御した実証実験です。2024年6〜10月におこなわれ、事前に定めた目標温度から逸脱しないことと、消費電力量をできるだけ小さくすることを目標におこないました。

実際の結果では、起動時の消費電力を削減しつつ日中の消費電力も抑制し、従来運転と比べて11〜34%の削減効果が得られました。特に、中間期の10月で削減効果が大きい結果となっています。

AIによる空調制御は、快適な室内環境に配慮しながら、省エネにつなげられる可能性があります。

事例2:オフィスビルで熱源・空調の運転を最適化し、エネルギー消費を削減

約1.2万㎡のオフィスビルでは、空冷ヒートポンプチラー3台、AHU45台、FCU22台を対象に、熱源の送水温度制御と空調の起動時刻最適化に取り組みました。送水温度制御は実稼働中の施設で、起動時刻最適化はシミュレーション上で実施しています。

冷房期間の送水温度をAIで制御した結果、熱源機器の消費電力量を従来制御と比べて約12%削減しました。また、空調の起動時刻最適化では、中間期の10月に空調電力消費量を約7.8%削減できる見込みが得られています。設定温度だけでなく、熱源設備や起動タイミングまで最適化の対象にできることが分かります。

AIを使った空調制御に興味がある場合や、既存設備に取り付けられるかを確認したい場合は、お気軽にご相談いただけます。ConsciousAirについて、詳しくはこちらのページをご覧ください。

まとめ:AI空調制御で設備運用の最適化を進めよう

  • AI空調制御は、設備データや気象情報などから空調需要を予測し、設定温度や運転時間などを最適化する仕組み
  • エリアごとの調整、管理者の負担、省エネと快適性の両立といった、従来運用の課題への対応が期待できる
  • 導入時は、空調方式、既存システムとの連携、取得できる運転データ、工事や保守の負担を確認することが重要

導入効果や対応可否は、建物の規模、設備構成、現在の運用状況によって異なります。まずは、自社の空調方式や設備構成、現在の運転状況を整理し、AI制御を導入できる環境か確認してみましょう。

複数施設での展開を考える場合も、代表となる施設でデータと課題を整理することが、社内提案の第一歩になります。

The following two tabs change content below.

株式会社アラヤ

先端AIとニューロテックを基盤とするディープテックベンチャーです。ムーンショット型研究開発への参画をはじめ、企業・大学との共同研究実績を多数有し、現役研究者とエンジニアが一体となった研究支援を提供しています。大学・研究機関における持続可能な研究体制の構築と研究力強化に貢献してまいります。
主な事業概要:
AIアルゴリズム開発(ディープラーニング・エッジAI・自律AI)、建設DXソリューション、研究現場の業務効率化支援(Research DX)など、基礎研究から社会実装まで一貫して手がけています。