工場の電気代は、エネルギー価格の高騰や燃料費調整額の上昇により、経営コストを圧迫する大きな要因となっています。特に製造業では、生産設備・空調・照明など多くの電力を使用するため、電気料金の増加がそのまま利益の圧迫につながります。
工場の節電では、電力使用量の見える化をおこない、負担の少ない運用改善と中長期的な設備対策を組み合わせることが重要です。
本記事では、工場の電気代が高くなる要因や電力消費の構造を整理したうえで、すぐに始められる節電対策から、中長期的な省エネ施策まで解説します。
工場の電気代が高騰している要因とは?節電が急務となる背景
2022年以降のエネルギー価格高騰を背景に、多くの企業で電力コストが上昇しました。帝国データバンクが2022年に実施した調査では、86.6%の企業が前年より電気料金が増加したと回答しており、平均増加率は28.7%に達しています。
出典:帝国データバンク「緊急調査:電気料金値上げに関する企業の実態アンケート」
工場は空調設備や生産設備などによる電力使用量が大きいため、電気料金の変動が利益へ与える影響も小さくありません。そのため、近年では省エネ設備の導入や運用改善による節電対策の重要性が高まっています。
ここからは、電気代が高騰している背景と、工場において節電が優先課題となる理由を整理します。
電気代高騰の主な要因は「エネルギー価格や燃料費調整額の上昇」
工場の電気代が高騰していた主な要因は、世界的なエネルギー価格の上昇と、それに伴う燃料費調整額の増加です。
日本は火力発電の燃料となるLNGや石炭などを海外からの輸入に大きく依存しています。そのため、国際情勢や地政学リスク、円安などの影響を受けると燃料価格が上昇し、電気料金にも反映されます。特に2022年以降はロシアによるウクライナ侵攻などを背景に燃料価格が高騰し、企業の電力コスト増加を招きました。
また、資源エネルギー庁によると、2023年度の産業用電気料金の平均単価は2010年度と比べて約74%上昇しています。この背景には、燃料価格の上昇や再エネ賦課金の増加などがあるとされています。
このような外部要因は企業側でコントロールできません。そのため、工場経営では料金単価の変動を待つのではなく、消費電力量そのものを削減する節電対策が重要になっています。
▼出典
- 経済産業省「日本のエネルギー2024」(https://www.enecho.meti.go.jp/about/pamphlet/energy2024/)
- 経済産業省「エネルギー白書2024」(https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2025/pdf/whitepaper2025.pdf)
- 経済産業省「これまでの御指摘等を踏まえた検討事項について~電力システム改革の検証~」(https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/pdf/084_03_00.pdf)
工場のコスト削減で電気代の節電が優先課題となる理由
製造業のコスト削減では、電気代の見直しが最も着手しやすい施策の一つです。
原材料費や人件費を削減すると品質低下や人材流出につながる可能性がありますが、適切な節電は生産品質を維持したまま利益改善につながります。
例えば利益率3%の企業が年間100万円の電気代を削減できた場合、その効果は約3,333万円の売上増加と同等です。
つまり節電は単なる経費削減ではなく、利益率を高める経営戦略と考えるべきでしょう。
【節電への第一歩】工場の電気代が高くなる原因と構造を理解しよう
工場の節電対策を進めるには、まず「どこで電気を使っているのか」「なぜ電気料金が高くなるのか」を把握することが重要です。
ここでは、工場の電気代が高くなる主な原因や電力消費の構造について解説します。
工場の生産設備・空調・照明の電力消費比率から見える傾向
工場では、コンプレッサーやポンプ、ファン、生産設備などの動力設備が大きな電力消費源となるケースが多く、空調設備や照明設備も重要な管理対象です。
省エネルギーセンターの「工場の省エネルギーガイドブック2024」でも、空調・換気設備、ポンプ・ファン・コンプレッサ、照明設備などを重点的な省エネ対象として挙げています。
出典:一般財団法人省エネルギーセンター「工場の省エネルギーガイドブック2024」
効果的な節電を実現するためには、生産設備・空調・照明の3分野を重点的に見直すことが重要です。
まずは電力使用量をリアルタイムに把握する「見える化(FEMS・IoT)」が重要
節電を成功させるには、電力使用量の見える化が欠かせません。毎月の請求書だけでは、どの設備がいつ大量の電力を消費しているのか分からないためです。
FEMS(Factory Energy Management System)やIoTセンサーを活用すれば、設備別・ライン別・時間帯別の消費電力を把握できます。
- FEMS:工場内の電力使用量や設備の稼働状況を管理・分析するシステム
- IoTセンサー:設備や配電盤などに設置し、電力使用量・温度・稼働状況などをリアルタイムで収集する機器
例えば次のような課題は、見える化によって初めて発見できます。
- 夜間停止しているはずの設備が待機電力を消費している
- コンプレッサーの稼働率が想定以上に高い
- 特定ラインの立ち上げ時にデマンドピークが発生している
- 空調が休日も稼働している
データに基づいた改善により、勘や経験に頼らない継続的な節電が可能になります。
1度のピークが1年間続く「契約電力(デマンド値)」の構造に注意
高圧受電の工場では、使用量だけでなく契約電力も重要です。
契約電力は過去1年間で最も高かった30分間平均電力によって決まり、一度ピークが発生すると、その後1年間の基本料金に影響します。
例えば真夏の午後、大型設備と空調を同時稼働させてピークが発生すると、年間で数十万~数百万円のコスト増加につながる可能性があります。
電気料金は「基本料金」と「電力量料金」で構成されるため、節電では総使用量だけでなく最大需要電力を抑えるピークカットも重要です。
料金を左右する「力率(りくりつ)」と進相コンデンサの役割
工場では力率も電気料金に影響します。
力率とは供給された電力を有効活用できた割合であり、85%を超えると基本料金の割引、下回ると割増になる制度があります。
モーターを多用する工場では力率が低下しやすいため、進相コンデンサの状態確認が有効です。経年劣化したコンデンサを更新するだけで力率が改善し、基本料金の削減につながるケースもあります。
設備更新前に確認したい重要なチェックポイントです。
【投資ゼロですぐに始められる】運用の見直しによる工場の節電方法5選
運用改善による節電は、設備投資を伴わずに実施できるため、多くの工場で最初に取り組みやすい施策です。特にデマンド値の抑制や待機電力の削減は、比較的短期間で電気料金の改善効果が現れるケースもあります。
まずは現場負担の少ない運用改善から着手し、その後に設備投資を検討すると、費用対効果の高い節電を実現できます。
工場の節電方法その1:機器の稼働シフト・スケジュール調整によるピークカット(デマンド分散)
大型設備の同時稼働を避けるだけでも節電効果が期待できます。
例えば、
- 始業時に全ラインを一斉起動せず、30分ずつずらして稼働させる
- 大型設備と空調の立ち上げ時間を分散させる
などの方法があります。
設備投資なしで基本料金削減を狙える実践的な方法です。
工場の節電方法その2:空調のフィルター清掃および室外機周辺の環境整備
空調フィルターの目詰まりは余計な電力消費を招きます。
一般的にフィルターが汚れると5~10%程度の電力ロスが発生する場合があります。また室外機周辺に荷物を置くと排熱効率が低下し、空調負荷が増加します。
定期清掃や通気スペース確保など、基本的な保守だけでも節電効果が期待できます。
工場の節電方法その3:空調設定温度の適正化
空調時の室温管理は、工場の電力消費を抑えるうえで取り組みやすい施策です。
環境省が推進する「デコ活」のクールビズ・ウォームビズでは、次の室温を目安に運用することが呼びかけられています。
- 夏季:冷房時の室温28℃
- 冬季:暖房時の室温20℃
外気温・湿度・建物の状況・体調などを考慮しながら、無理のない範囲で室温を管理することが重要です。
▼出典:
- 「適切な室温管理について」(環境省)(https://ondankataisaku.env.go.jp/decokatsu/coolbiz/article/2020_action_detail_004.html)
- 「ウォームビズ(WARMBIZ)とは」(環境省)(https://ondankataisaku.env.go.jp/decokatsu/warmbiz/about/)
ただし、これらは「室温の目安」です。工場では熱中症リスクや製品品質、設備条件を優先し、現場の温湿度を確認しながら運用しましょう。
工場の節電方法その4:製造ライン・オフィス等の不要箇所の消灯・間引きの徹底
使っていない場所の照明を消すだけでも無駄な電力を削減できます。
休憩室や倉庫、停止中ラインの照明を見直し、自然光を活用できる場所では日中の消灯も検討しましょう。
安全性を損なわない範囲で実施することが前提です。
工場の節電方法その5:コンプレッサーの空気漏れ(エア漏れ)点検と供給圧力の最適化
コンプレッサーは工場最大級の電力消費設備です。
工場全体の2~3割を占めることもあり、配管や継手のエア漏れはそのまま電力ロスになります。
石鹸水などを使った漏れ点検や、必要以上に高い供給圧力の見直しだけでも効果が期待できます。
【設備更新・ハード対策】中長期で効果が期待できる工場の節電手法7選
運用改善による節電は比較的取り組みやすい一方、設備の老朽化や建物性能の低下が原因となっている場合は、十分な効果を得られないことがあります。中長期的な電気料金の削減を目指す場合は、設備投資を伴う対策も検討することが重要です。
ここでは、工場の省エネ性能を高め、継続的なコスト削減につながる設備更新・ハード対策を紹介します。
工場の節電方法その6:高効率なLED照明への全面刷新
蛍光灯や水銀灯をLEDへ更新すると、大幅な省エネが期待できます。
消費電力は50~70%程度削減できるケースもあり、寿命も長いため交換コストも抑えられます。また、高天井工場では高所作業の削減にもつながるでしょう。
LED照明は国や自治体の省エネ補助金の対象となる場合もあるため、導入時に確認しておくと安心です。
工場の節電方法その7:低効率な旧式モーターの更新とインバータ化による制御最適化
古いモーターは無駄な電力消費が発生しやすくなります。
高効率モーターやインバータ制御へ更新すると、負荷に応じた最適運転が可能です。特にポンプやファンで高い省エネ効果が期待できます。
既存のインバータ空調をさらに省エネ化するAI空調制御システム「Conscious Air」
近年の業務用空調の多くは、負荷に応じて出力を調整できるインバータ制御を採用しています。ただし、工場では外気温や稼働状況、時間帯によって空調負荷が大きく変動するため、手動管理だけで常に最適な運転状態を保つことは容易ではありません。
こうした課題に対し、AIで空調負荷を予測しながら出力を自動制御する方法があります。例えば次のような課題を抱える工場では、AI制御による省エネ効果が期待できます。
- 夏場にデマンド超過が発生しやすい
- 空調停止による作業環境悪化を避けたい
- 高天井空間で空調負荷が大きい
- 熱中症対策と節電を両立したい
アラヤのAI空調最適化AI「Conscious Air」は既存のインバータ空調へ後付けでき、AIが空調負荷を予測しながら出力を自動制御します。空調を停止せずに節電できるため、現場環境を維持しながらデマンド抑制を実現しやすい点が特徴です。
工場の節電方法その8:建物の遮熱塗装(屋根・外壁への遮熱トップコート施工)
屋根や外壁への遮熱塗装は、太陽光による建物表面の温度上昇を抑え、工場内へ伝わる熱を軽減する対策です。
特に屋根面積が広い工場や高天井工場では、夏季に屋根からの熱がこもりやすく、空調負荷が大きくなる傾向があります。遮熱塗装をおこなうことで室温上昇を抑え、冷房負荷の低減につながる可能性があります。
既存の空調設備を更新する前に、建物側の熱対策として検討したい中長期的な省エネ施策です。
工場の節電方法その9:変圧器(トランス)やキュービクルの高効率機器への入れ替え
変圧器は、受電した高圧電力を工場内で使用できる電圧へ変換する設備です。工場の稼働時間にかかわらず通電しているため、損失が積み重なりやすい設備でもあります。
老朽化した変圧器では、待機損失や変換時の熱損失が大きくなっている場合があります。高効率タイプへ更新することで、工場全体のベース電力を下げられる可能性があります。
ただし、キュービクルまわりの工事では停電対応が必要になるため、法定点検や設備更新のタイミングに合わせて検討すると効率的です。
工場の節電方法その10:遮熱シートや二重窓(内窓)設置による開口部の断熱性向上
窓や搬入口、出入口などの開口部は、外気や日射熱が入り込みやすい箇所です。開口部の断熱性が低いと、冷暖房した空気が逃げやすくなり、空調効率が低下します。
窓には遮熱シートや二重窓、搬入口にはシートシャッターやビニールカーテンを設置することで、外気の流入や熱の出入りを抑えやすくなります。
空調設備の能力を上げる前に、冷気・暖気を逃がさない建物環境を整えることが重要です。ただし、搬入動線や換気、安全性を妨げない範囲で実施しましょう。
工場の節電方法その11:自家消費型太陽光発電の導入
工場の広い屋根は、太陽光発電を設置しやすいスペースとして活用できます。昼間の操業時間と発電時間帯が重なりやすいため、発電した電力を工場内で使うことで購入電力量を削減できます。
電気代削減だけでなく、CO2排出量の削減や災害時の電源確保にもつながる施策です。
「PPAモデル(オンサイトサービス)」の活用も選択肢の一つ
初期投資を抑えたい場合は、PPAモデルの活用も選択肢になります。
PPAモデルは、事業者が工場の屋根などに太陽光発電設備を設置・所有し、工場側が発電した電気を購入して利用する仕組みです。設備購入費や維持管理費を抑えながら、太陽光発電を導入できるケースがあります。
工場の節電方法その12:蓄電池の設置
蓄電池は、夜間電力や太陽光発電の余剰電力を蓄え、必要な時間帯に使用できる設備です。
昼間のピーク時間帯に蓄電池の電力を使うことで、デマンド抑制につながります。また、停電時には生産設備や通信設備のバックアップ電源として活用できるため、BCP対策としても有効です。
まとめ:自工場に最適な節電・省エネ対策を組み合わせよう
- 工場の節電は、生産設備・空調・照明の優先順位を踏まえて進めることが重要
- 運用改善と設備投資を組み合わせることで、大きな削減効果が期待できる
- データ活用やAI制御を取り入れることで、現場負担を抑えながら継続的な省エネを実現しやすくなる
まずは過去12か月分の電気料金明細を確認し、使用電力量だけでなく「最大デマンド値」と「力率」を把握しましょう。力率が85%未満であったり、一時的なピークで契約電力が上昇していたりする場合は、その改善が優先課題になります。
現状を正しく把握したうえで、自社に最適な節電施策を組み合わせることが、持続的な電力コスト削減への近道です。
株式会社アラヤ
先端AIとニューロテックを基盤とするディープテックベンチャーです。ムーンショット型研究開発への参画をはじめ、企業・大学との共同研究実績を多数有し、現役研究者とエンジニアが一体となった研究支援を提供しています。大学・研究機関における持続可能な研究体制の構築と研究力強化に貢献してまいります。
主な事業概要:
AIアルゴリズム開発(ディープラーニング・エッジAI・自律AI)、建設DXソリューション、研究現場の業務効率化支援(Research DX)など、基礎研究から社会実装まで一貫して手がけています。
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