「工場の空調にかかる電気代を抑えたい」「すぐにできる省エネ方法を知りたい」と悩んでいる方もいるでしょう。実は、省エネは高効率設備への更新だけではありません。設定温湿度や運転時間、清掃など、既存設備の運用を見直すだけで改善できることもあります。
そこで、空調に使う電力や運転状況を把握し、自社工場に合った施策から始めることが大切です。単に運転を減らすのではなく、必要な温湿度や換気を保ちながら無駄を減らす視点が欠かせません。
本記事では、既存設備のまま取り組める方法から、断熱・遮熱、設備更新、制御システムまで、工場空調の省エネ対策11選と施策を選ぶポイントを解説します。
工場で空調の省エネが重要な理由
まずは、工場で空調の省エネが重要な理由を整理します。
理由1:製造業では電力消費が多く、電気料金も高い水準にあるため
工場では、電力、ガス、蒸気・熱など、さまざまなエネルギーを使用します。
資源エネルギー庁の「令和6年度エネルギー消費統計結果概要」では、製造業が消費するエネルギー量のうち、電力が多くの割合を占めています。
- 電力:51.1%
- 蒸気・熱:19.5%
- 石油・石炭製品:16.0%
- ガス:12.3%
- 再生可能等:1.0%
参考:「令和6年度エネルギー消費統計結果概要」(資源エネルギー庁)(https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/energy_consumption/ec001/)をもとに作成
電気料金は、燃料価格や為替などの影響を受けて変動します。単価の動きを待つだけではなく、使用する電力量そのものを抑える取り組みを継続することが、電力コストの削減につながるでしょう。
理由2:空調設備も工場の消費電力を占めるため
資源エネルギー庁の「夏季の省エネメニュー 事業者の皆様」では、製造業の用途別電力消費率の事例として、生産設備が83%、空調・照明などの一般設備が17%と示されています。工場の電力消費は生産設備の割合が大きい一方、空調も照明と合わせて一定の割合を占める設備です。
また、資料では、業種や生産品目、必要な生産環境によって電力の消費形態は異なるとされています。上記の割合はすべての工場に当てはまるものではありませんが、空調も見直しの対象になると考えられます。
参考:「夏季の省エネメニュー 事業者の皆様」(資源エネルギー庁)(https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/media/index.html#1)
生産設備は消費電力に占める割合が大きい一方、生産量や品質に直結するため、単純に稼働を抑えにくい場合があります。空調は、必要な環境を保ちながら設定や運転方法を改善できる余地があるため、まず現状を把握して取り組みやすい項目から確認しましょう。
工場の空調における省エネ施策11選
ここでは、工場の空調における省エネ施策を11個紹介します。自社に取り入れやすい施策から実行してください。
工場の空調省エネ施策その1:温度・湿度を見直す
設定温度を適正化すると、必要以上の冷暖房によるエネルギー消費を抑えられます。ただし工場では、作業者の暑さ・寒さだけでなく、製品品質や静電気対策などのために湿度管理が必要な場合があります。建屋全体を一律に設定するのではなく、作業エリアや製造工程ごとに必要な条件を整理することが大切です。
加湿が必要な場合は、加湿方式も確認しましょう。水を気化させる加湿では、気化熱によって周囲の熱を奪い、条件によっては冷房負荷の低減につながることがあります。
一方、製品や工程に必要な温湿度の範囲を外すと品質や作業環境に影響するため、変更前後の状態を記録しながら調整が必要です。
工場の空調省エネ施策その2:フィルター・熱交換器を清掃する
フィルター清掃と熱交換器の定期的な洗浄は、空調を本来の性能で使い続けるための基本的なメンテナンスです。
フィルターや熱交換器にほこり・油分などがたまると、空気の通りや熱の移動が妨げられ、空調の効率が下がります。また、熱交換器は、空気と冷媒・冷温水などの間で熱を移動させる機器です。汚れの程度や清掃方法は、粉じん量、稼働時間、設備の種類で異なります。
頻度を一律に決めるのではなく、設備メーカーの基準や自社の使用環境に合わせ、点検・清掃の計画を立てましょう。
工場の空調省エネ施策その3:室外機周辺の環境を改善する
室外機が十分に吸気・排気でき、熱を逃がせる環境を確保することも重要です。夏場は直射日光などで室外機の周辺温度が上がると、熱を放出しにくくなる場合があります。また、吸込口・吹出口を荷物や植栽などで塞ぐと、性能低下につながる可能性があります。
日よけなどの遮光対策をおこなう場合も、室外機の吸排気を妨げないよう注意しましょう。
設備の更新を検討する前に、室外機の周囲に障害物がないか、熱気がこもりやすい配置になっていないかを確認してください。
工場の空調省エネ施策その4:運転時間・起動方法を見直してピーク電力を抑える
操業時間に合わせて空調の運転時間を見直し、不要な運転を減らすことは、消費電力量の削減につながります。
例えば、終業前に空調を停止し、室内に残った冷気・暖気を活用できないか検討する方法があります。ただし、作業者や工程に必要な環境を損なわない範囲で実施しましょう。
また、ピーク電力を抑える方法として、次の2つがあります。
- 分散起動:複数の空調設備を同時に起動せず、時間をずらして順番に動かす方法。一斉起動による一時的な電力使用量の増加を抑えられる。
- デマンドコントロール:電力の使用状況を監視し、設定した上限を超えそうな場合に設備の運転を調整する仕組み。ピーク時の電力使用量を抑えるのに役立つ。
運転時間の見直しは電力の使用量を減らす施策、分散起動やデマンドコントロールはピーク電力を抑える施策として、目的を分けて考えましょう。
工場の空調省エネ施策その5:外気導入量・換気方法を最適化する
換気をする際、必要以上の外気を取り込むと、その空気を設定温湿度まで処理するために空調負荷が増えます。そのため、必要な換気量と室内環境を確保した上で、過剰な外気導入を防ぐことが重要です。
外気導入量・換気方法を最適化するには、CO2濃度などの室内環境に応じて外気量を制御する方法や、排気する空気の熱を回収する全熱交換器を活用する方法があります。
なお、換気する上で外気導入量だけでなく、空調機の風量が過剰になっていないかも確認しましょう。換気に関する法令・衛生上の基準や、生産工程上の条件を必ず守ってください。
工場の空調省エネ施策その6:外気や夜間冷気を冷房に活用する
外気温が室温より低い条件では、外気を利用して機械冷房の負荷を減らせる場合があります。代表的な方法がナイトパージです。夜間の低温な外気を取り込み、建物内部にたまった熱を排出することで、翌日の空調起動時の冷房負荷を抑える考え方です。
外気冷房やフリークーリングも、外気条件を活用して冷房負荷を減らすのに役立ちます。
ただし、外気温・湿度、粉じん、製造環境によって使える条件が異なり、すべての工場に適するわけではありません。導入前には、温湿度や異物混入などへの影響を確認しましょう。
工場の空調省エネ施策その7:熱源設備の運転条件を最適化する
セントラル空調などの熱源設備を採用している工場では、空調機だけでなく、冷凍機やチラーといった熱源設備の運転条件も省エネに影響します。冷却水・冷水などの温度条件を年間で固定するのではなく、季節や負荷に合わせて適正化する考え方が必要です。
例えば、冷房時に冷水出口温度を高める、暖房時に温水出口温度を下げるといった調整が検討できます。
ただし、設備仕様や生産工程に必要な温度条件を無視すると、運用上の問題につながります。設備の特性を確認し、専門家とも相談しながら対策を進めましょう。
工場の空調省エネ施策その8:断熱・遮熱によって空調負荷を抑える
空調設備を改善するだけでなく、工場内に入る熱や工場内で発生する熱を減らすことでも、空調負荷を抑えられます。工場では屋根・外壁・窓からの日射、製造設備から出る機械熱が室温上昇の要因になることがあります。
具体的には、断熱材の追加・強化、窓への遮熱フィルムの施工、屋根への遮熱シート・遮熱塗料の導入、発熱源への遮熱対策などが選択肢です。これらは空調能力を高めるのではなく、空調が処理する熱そのものを減らす施策です。
建物と発熱源を確認し、負荷が生じている箇所を見極めて対策しましょう。
工場の空調省エネ施策その9:間仕切りによって空調範囲を限定する
広い工場全体を一律に空調するのではなく、人が作業するエリアなど必要な範囲に限定すると、空調負荷を抑えられる場合があります。ビニールカーテンなどで作業エリアを区切り、冷気・暖気の流出や外気の侵入を抑える方法が代表例です。
また、搬入口などの大きな開口部は、外気が入りやすく室温を維持しにくい場所です。間仕切りを設ける際は、作業動線、安全性、必要な換気、設備からの排熱を妨げない配置にしてください。
空調設備だけでなく、空調対象となる空間そのものを見直すことも省エネにつながります。
工場の空調省エネ施策その10:高効率な空調・熱源設備へ更新する
既存設備の老朽化や効率低下が大きい場合は、運用改善に加えて高効率設備への更新も検討対象です。
空調設備の効率を示す主な指標には、次の2つがあります。
- COP:一定の条件で運転したときに、消費電力1に対してどれだけの冷暖房能力を得られるかを示す値。数値が大きいほど、効率よく運転できることを意味する。
- APF:冷房・暖房を含め、年間を通じた運転を想定して算出する効率の指標。季節による使用状況も考慮されるため、年間の省エネ性能を比較する際の目安になる。
設備を比較する際は、同じ条件で示された数値かを確認し、機器の能力や実際の使用環境も踏まえて選定しましょう。
また、設備更新にはコストがかかります。新しい機器への交換を考える際は、現在のエネルギー使用量や更新費用、見込まれる削減量、既存設備の残存寿命、生産への影響を踏まえて判断することが大切です。
なお、設備更新や省エネ設備の導入では、国や自治体の補助金を利用できる場合があります。対象設備や申請条件を確認し、導入費用の負担も含めて検討しましょう。
工場の空調省エネ施策その11:空調制御システムを導入する
設定変更や運転時間の調整を人手だけで続けるには限界があります。そこで、EMS(エネルギーを見える化・管理する仕組み)などを活用すると、エネルギー使用量や施策の効果を把握しやすくなります。
設備の運転状況や負荷に応じて制御すれば、必要な環境を保ちながら無駄な運転を減らせるでしょう。
工場では空調設備だけでなく、熱源設備もエネルギーを消費します。個別の機器だけを見るのではなく、熱源と空調を含めた設備全体の運用を最適化する視点が重要です。運用の見える化と改善の定着が難しい場合は、制御システムの導入を検討しましょう。
AIを活用した空調制御なら「ConsciousAir」も選択肢の一つ
空調制御をさらに高度化したい場合は、AIを活用した空調最適化も選択肢の一つです。アラヤの「ConsciousAir」は、既存の空調設備に後付けで導入できる空調最適化AIです。
予測AIが気象情報や設備の運転データなどをもとに空調需要を予測し、制御AIがエネルギー消費を抑える運転計画を生成します。空調設備を個別に制御するだけでなく、熱源設備と空調設備を一体で制御することで、施設全体のエネルギー運用の最適化を目指せる点が特徴です。
既存設備を活用できるため、基本的に大規模な設備改修や追加センサーを必要とせず、運転を止めずに導入できます。導入時の負担を抑えながら、省エネを進めたい工場に適した方法といえるでしょう。
ConsciousAirについて、詳しくはこちらのページをご覧ください。
工場空調の省エネ施策を選ぶポイント
工場空調の省エネ施策は、設備構成や稼働状況、生産工程によって適した方法が異なります。削減効果だけで判断せず、まずは空調・熱源設備のエネルギー使用量と運転状況を把握しましょう。
確認する主な項目は、次のとおりです。
- 設定温度
- 運転時間
- 外気量
- 設備効率
最初は、設定変更やフィルターや室外機の清掃、運転時間や起動方法の見直しなど、既存設備のまま実施できる運用改善から検討するのが基本です。また、運用改善だけでは十分な効果が得られない場合は、断熱・遮熱対策や高効率な空調・熱源設備への更新、空調制御システムの導入などを検討します。
必要な温湿度や設備条件を維持できることを前提に、自社の課題に合った施策を選びましょう。
まとめ:工場における空調の省エネは自社に合った施策から始めよう
- 工場では空調も電力を使う主要設備の一つであり、電力使用量を把握したうえで改善することが重要
- 設定温湿度、清掃、室外機周辺、運転時間など、既存設備のまま実施できる施策から始められる
- 運用改善で足りない場合は、断熱・遮熱、設備更新、制御システムを、費用と生産への影響を含めて比較・検討する
工場の省エネに取り組み、施策の効果を持続させるには、定期的な清掃・点検と運転状況や電力使用量の確認・改善を続けることが重要です。保守運用を継続し、設備の劣化や設定のずれを早めに把握することで、安定した省エネにつなげられます。
まずは、自社工場の空調・熱源設備がいつ、どのように動いているかを確認し、取り組める施策を一つ選んでみましょう。実施前後の使用量や室内環境を記録すれば、次に検討すべき改善策も判断しやすくなります。
株式会社アラヤ
先端AIとニューロテックを基盤とするディープテックベンチャーです。ムーンショット型研究開発への参画をはじめ、企業・大学との共同研究実績を多数有し、現役研究者とエンジニアが一体となった研究支援を提供しています。大学・研究機関における持続可能な研究体制の構築と研究力強化に貢献してまいります。
主な事業概要:
AIアルゴリズム開発(ディープラーニング・エッジAI・自律AI)、建設DXソリューション、研究現場の業務効率化支援(Research DX)など、基礎研究から社会実装まで一貫して手がけています。
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